中学受験の生活面・メンタル面を考える(26)
今日も私のブログにお越しいただき、ありがとうございます。
感謝申し上げます。
本日は、中学受験の大手進学塾が教えてくれないメンタル面・生活面の問題点の第26回目となります。
夜十時を過ぎたリビングで、お子さんが寝静まったあと、冷めかけたお茶を前にして、ぼんやりと天井を見つめていらっしゃるお母さんがおられます。
手元には、まだ手をつけていない塾のテキストと、お子さんが途中で投げ出した宿題のプリント。
さっきまで「早くしなさい」と声を荒げてしまった自分を責めながら、心の奥でずっと小さくつぶやいている言葉があります。
「もう、やめさせた方がいいのではないだろうか」
でも、その次の瞬間には、別の声が押し寄せてきます。
ここでやめさせたら、この子に逃げ癖がついてしまうのではないか。
これまで注いできた時間とお金を、無駄にしてしまうことになるのではないか。
何より、私が諦めさせたという事実が、この子の人生にずっと残ってしまうのではないか。
そんな堂々巡りの葛藤を、もう何ヶ月も、誰にも話せずに一人で抱えていらっしゃるお母さんは、本当に少なくありません。
どうか、ご自身を責めないでいただきたいのです。
我が子を思うからこそ、深く悩み、苦しんでおられるのです。
今日お伝えしたいのは、「やめる」ということは決して敗北ではない、ということです。
限界を迎えた場所からお子さんを連れて出ることは、お子さんの未来と心を守るための、勇気ある「戦略的な撤退」です。
後ろ向きの選択ではありません。
むしろ、お子さんの人生全体を見渡せる方にしかできない、前向きな「戦略変更」なのです。
なぜ「やめる」決断はこれほど苦しいのか
入塾された時のことを、少しだけ思い出していただきたいと思います。
あの頃、お母さんが願っていらっしゃったのは、「この子の将来の選択肢を、少しでも広げてあげたい」ということだったはずです。
もちろん、その思いに嘘はありません。
合格そのものが目的だったわけではなかったのです。
ただ、塾に通い始めて半年、一年と過ぎていくうちに、目的はいつの間にかすり替わっていきます。
月例テストの偏差値、クラスの上下、宿題の消化率。日々の指標に追われているうちに、最初の願いを思い出す余裕すらなくなってしまうのです。
これは、お母さんが悪いのではありません。
中学受験という仕組みの中に身を置けば、ほとんどのご家庭がそうなります。
ある意味で仕方がないことなのです。
そして、もう一つ。
決断を鈍らせる最大の要因が、これまで注いできた時間、お金、家族のエネルギー、お子さんの努力への「執着(サンクコスト)」です。
何年もかけて送迎し、お弁当を作り、決して安くない費用を払い続けてきた事実が、重い足かせとなります。
特に偏差値50前後という位置にいらっしゃると、この縛りは強くなります。
届きそうで届かない、その絶妙な距離感が「あと少し頑張れば」という未練を生むのです。
塾の先生からの「今が一番苦しい時期です」「あと少しです」という引き留めの言葉も、本来の客観的な状況判断を曇らせる要因になります。
ということは、お母さんが今苦しんでいらっしゃるのは、お母さんが弱いからではないのです。
注いだものが大きければ大きいほど、続けたくなるのが人間です。
まずは、ご自身を責めてしまう思考の絡まりを客観的に見つめ直すことから始めてみてください。
立ち止まるべきサインは、すでに表れていることがあります
「戦略変更」を真剣に検討した方がよいタイミングというのは、必ずどこかにサインとして表れています。
それは、お子さんに、ご家庭に、そしてお母さんご自身に、それぞれの形で出てきます。
1. お子さん自身が発している限界のサイン
もっとも見落とされやすいのが、身体の変化です。
塾の前になると頭が痛くなる。
日曜の夜になるとお腹を下す。
寝つきが悪くなる、朝起きられない。
これらを「気のせい」「甘え」と片づけてしまうと、後で取り返しがつかなくなることがあります。
それから、表情です。
以前はあった笑顔が消え、目に光がない。
口では「やる」と言うけれど、その言葉と表情がまったく一致していない。
ここで一番大切にしていただきたいのは、お子さんが見せている表面の言動だけを見ないことです。
「めんどくさい」と投げ出した、その手の震えの奥に何があるのか。
声のトーン、伏せられた視線、普段の何気ない態度の奥底で、その小さな心が何を訴えようとしているのか。
お子さんご自身でも、自分が今どんな状態なのか、うまく言葉にできていないことがほとんどです。
だからこそ、一番近くにいらっしゃるお母さんが、その奥にある想いを、そっとすくい取ってあげていただきたいのです。
2. 家庭環境に出ているサイン
気がつくと、お子さんとの会話が勉強と宿題のことばかりになっていないでしょうか。
下のお子さんに知らず知らずしわ寄せがいっていたり、夫婦の会話が教育方針の対立で終わることが増えてピリピリしているなら、それは健全な状態とは言えません。
3. お母さんご自身の心のサイン
やめさせたいと思う自分を責めてしまう。
お子さんの偏差値の上下で、ご自身の機嫌が大きく揺れてしまう。
続ける理由を尋ねられたときに、「ここまで来たのだから」以外の答えが出てこない。
これらが揃ってきているとしたら、それは一度立ち止まる勇気が必要だというサインです。
撤退のカードを切れるのは、親であるお母さんだけです。
塾は引き留めます。これはビジネスの側面もあるため当然のことであって、責められることではありません。
お子さんも、お母さんを悲しませたくない一心で、自分からは「やめたい」とは言えません。
一番近くで見ていらっしゃるお母さんだけが、お子さんを守る最後の砦なのです。
「
やめる」にもグラデーションがあります
ここで誤解していただきたくないのは、「やめる」か「歯を食いしばって続ける」かの二者択一ではない、ということです。実際には、戦略変更にはいくつかのルートがあります。
- ルートA:公立中学から高校受験への切り替え
完全に中学受験から離れる道です。
これまで積み上げた基礎学力や思考力は、決して消えません。
むしろ、傷ついた自己肯定感が回復したあとに、高校受験で本来の力を発揮し、大きく伸びるお子さんを、私はたくさん見てまいりました。 - ルートB:一時休止によるエネルギー充電
完全にやめるかどうかを決める前に、思い切って数ヶ月間塾を離れ、心と体の回復を待つ。エネルギーが十分に充電されたあとで、もう一度家族で話し合うという道です。 - ルートC:環境・規模の縮小(ルート変更)
過酷な大手塾の競争から降り、個別指導に切り替える。
週のコマ数を減らす。志望校を、お子さんが等身大で笑顔で通える学校へとシフトする。
受験そのものはやめなくても、戦い方を変えるという選択肢です。
どの道を選んでも、お子さんの将来が閉ざされるわけではありません。別の入り口に向かう新しい一歩なのです。
本当に守りたいものは何だったでしょうか
中学受験の本当のゴールは、どこかの中学校に合格することではないと、私は思っています。
お子さんが「自分には価値がある」「生きているって楽しい」と感じられること。
これから先の長い人生を生き抜いていく、心と体の健康。
守りたいのは、必ずしも合格そのものではなかったはずです。
撤退を選べるお母さんは、逃げているのではありません。
お子さんの人生全体を見渡せる、強くて、優しくて、優秀な戦略家です。
今、夜のリビングで一人悩んでいらっしゃるお母さん、その悩みは、あなたが本気でお子さんと向き合っている何よりの証拠です。
本当に、本当に、ここまでよく頑張ってこられました。
ただ、ここから先の判断は、ご家庭の中だけで抱えるには、あまりに大きすぎることが多いのです。
「我が家は今どの段階にあるのか」「やめるべきなのか、環境を変えるべきなのか」、そういった迷いを、どうか一人で悩まないでください。
お悩みの方は、個別にご相談ください。
それぞれのご家庭にとっての「最善の戦略変更」を、一緒にオーダーメイドで組み立てさせていただきます。
【あわせて読んでおきたい記事】 ▶︎「塾が合わないのか、受験そのものが苦しいのか、それを見分けるための整理法」
最後までお読みいただきありがとうございました。
どうぞ今日も良い一日でありますようにお祈りしております。
ー中学受験と不登校(1034)ー

