私立中学での不登校(5)第5話 学習スピードに追いつけない構造
今日も私のブログにお越しいただき、ありがとうございます。 感謝申し上げます。
私立中学校に合格したけれど、どうしても学校に通えなくなってしまう子どもたちのことを、私は日々考えています。
前回は、合格後に待ち受ける「終わらない競争」についてお話をさせていただきました。
今日はその続きとして、その競争をさらに過酷なものにしている、私立中学に合格した子どもたちが、なぜ授業の学習スピードに追いつけなくなってしまうのか、その構造的な部分についてお話をさせていただきます。
私立中学のカリキュラムは、想像以上に速いのです
私立中学の多くは、高校と一貫した6年間のカリキュラムで動いています。
これは、私立中学を選ぶ大きな魅力のひとつでもあります。
ただ、ここに見落とされがちな現実があります。
エスカレーター式で大半の子どもたちがそのまま大学へ内部進学していくような附属校の場合は、大学受験を意識する必要がありません。
そのため、学習のカリキュラムも無理がなく、進度もそれほど速くないことがほとんどなのです。
ところが、大学受験で難関大学への合格者を多数輩出している私立中高一貫校の場合、状況は全く異なります。
そのカリキュラムは、最初から大学受験を見据えて設計されているのです。
文部科学省の学習指導要領にある「探究」を大切にしながらも、現実には「いかに大学受験で結果を出させるか」を最優先にしている学校が多いことは、否めません。
具体的に申し上げますと、現在の学習指導要領では、高校内容のボリュームが非常に大きくなっています。
そのため、中学の三年分の内容を中学1年生と2年生の二年間で終わらせて、中学3年生からは高校の学習内容に入る、という学校がほとんどです。
学校によっては、中学内容をわずか1年から1年半で終え、遅くとも中学2年生の後半にはもう高校内容に完全に移行しているところもあります。
このスピード感の中で、授業は休むことなく進んでいきます。
そして、そのスピードについていける子どもが合格しているのです。
「合格できる学力」と「合格後に走り続けられる力」は別物です
ここで、お母さまにお伝えしたいことがあります。
中学受験で合格できる学力と、合格後に休まず走り続けられる力は、必ずしも同じものではありません。
厳しい中学受験を終えた子どもたちは、本当は少し休憩したいと思っています。
「やっと終わった」「少しだけゆっくり休みたい」というのが、子どもたちの偽らざる本音なのです。
長い時間をかけて努力を続け、ようやく合格を勝ち取ったのですから、それは当然の気持ちです。
ところが、入学してみると、授業はガンガン進みます。
しかも、教室にいるのは、自分と同じくらいの学力か、それ以上に勉強ができる子どもたちです。
少しでも気を抜けば、あっという間に置いていかれてしまうという恐怖が、常に付きまといます。
さらに、子どもたちを追い詰めるのは、学習スピードだけではありません。
新しい人間関係の構築、本格化する部活動、そしてこれまで経験のなかった長い通学時間など、生活全体に大きな変化が一度に押し寄せます。
大人でさえ心身ともに疲弊するような激しい環境変化の中で、子どもたちは私たちが想像する以上のエネルギーを消費しているのです。
息つく暇もなく、子どもらしさも、遊びたい気持ちも、いったん横に置いて、努力を続けることを求められる。
これが、合格後の現実なのです。
「合格するまで、そこまで」と頑張り続けた子どものこと
中学受験塾で懸命に努力を続けてきた子どもたちの中には、合格を目標にして、「合格するまで、そこまで、そこまで」と、自分の苦しさや辛さに蓋をしながら走り続けてきたお子さんがいます。
本当はすごく辛いと感じていても、本当はもう逃げ出したいほど苦しいと感じていても、その自分の気持ちに硬く蓋をして、歯を書いしばって努力を続けてきたのです。
そういうお子さんは、本当に頑張り屋さんです。
ただ、合格して喜んだのも束の間、また走り続けないといけないという現実に直面した瞬間、呆然として動けなくなってしまうことがあります。
張り詰めていた糸がプツンと切れたように、燃え尽き症候群のような状態になり、机に向かう力も、学校に向かう力も、出てこなくなってしまうのです。
朝、布団からなかなか起き上がれなくなったり、制服を着る手が止まってしまったりします。
それは決して怠けているわけではありません。
もうこれ以上は走れない、これ以上は頑張れないという、心の奥底からの大切なサインなのです。
そうなると、学校に通うことが、ただ辛いだけ、ただ怖いだけのものになってしまいます。
ここで大切なことは、これは「私立中学に通えなくなった」という出来事ではない、ということです。
実は、その前から無理を重ねていて、合格という形で一区切りがついたときに、それまで抑えていたものが一気に出てきてしまった、という感じなのです。
なぜ、ご家庭でその無理に気づきにくいのでしょうか
このようなお子さんの場合、受験勉強の段階では、ある程度勉強ができていて、合格圏内にいたはずです。
ということは、ご家庭から見ても、塾から見ても「順調にいっている」ように見えていたのです。
しかも、お子さん自身が「合格を目標」に頑張り続けています。
合格の向こう側には、楽しい学校生活が待っている。
お友だちと笑い合える毎日が待っている。
そう信じて、走り続けていたのです。
その向こう側で、また全力で努力を続けないといけないなどとは、思ってもいませんでした。
だからこそ、入学後の現実に触れた瞬間、「もう無理」となってしまうのです。
さらに申し上げると、こういうお子さんは「いい子」であることが多いのです。
人と競争したり、誰かと争ったりすることが、もともとあまり得意ではありません。
塾という競争環境の中でも、本心では辛かったはずです。
それでも、お母さまやお父さまを悲しませたくない、期待に応えたい、そういう想いで頑張り続けてきました。
お子さんが何も言わなかったのは、決して平気だったからではありません。
言葉にできなかっただけなのです。
「お母さん、苦しい」と言えなかった、その気持ちの奥にあるものを、合格後にこそ、丁寧に受け止めてあげる必要があります。
では、どうすればよかったのでしょうか
これは、結果論として申し上げているのではありません。
私立中学の合格を「目標」にすることが、必ずしも悪いわけではありません。
ただ、合格を「最終ゴール」として、そこに向かってすべてを注ぎ込んでしまうと、合格後に走り続ける力が、お子さんの中に残らなくなってしまうのです。
合格は、6年間の学校生活の入り口です。
その先にある日々を、自分なりに、慌てず騒がず、やっていける力。
自分に合った学習方法を見つけて、合格後も自分のペースで歩いていける力。
これらを、受験勉強の中で、少しずつでも育てておく必要があったのです。
「合格後に身につければいい」というお考えもあるかもしれません。
もちろん、合格後に身につけることができないわけではありません。
ただ、それが許されるのは、クラスの中で上位にいて、心の余裕がある場合に限られるのです。
すでに受験の段階でギリギリまで無理をして、心の余裕をすべて使い果たしてしまったお子さんに、入学後に新しいやり方を身につける余裕など、どこにも残っていないのです。
今、立ち止まってしまったお子さまのために、できること
「では、もう手遅れなのだろうか」と、不安に思われる必要はありません。
今からでもできることは、必ずあります。
まずは、学校の学習スピードから、お子さんの心と体を「一時的に切り離してあげる」勇気を持っていただきたいのです。
宿題が終わっていなくても、授業についていけていなくても、今は「生きているだけで100点満点」だと、家庭を絶対的な安全基地にすること。
これが、エネルギーを回復するための最初のステップになります。
そして、焦って遅れを取り戻そうと塾や家庭教師を詰め込むのではなく、まずは心に十分な余白ができるまで、徹底的に休ませてあげてください。
エネルギーが戻ってくれば、子どもは必ず「自分から」歩き始めます。
大手進学塾の競争だけでは、見えないものがあります
だからこそ、お伝えしたいのです。
私立中学に合格しても不登校になってしまう。
そういう状況を避けるために、どのように中学受験に向き合うか。
大手進学塾の言うことだけを信じて、その中での競争に身を投じるだけでは、うまくいかないことがあります。
塾での順位、模試の偏差値、志望校判定。それらはもちろん大切な情報です。
ただ、それだけを見ていると、お子さんが本当に感じていること、これからの6年間を歩いていくための力が育っているかどうか、そういう部分が見えなくなってしまうのです。
お子さんが机に向かいながらも、ふと見せる表情。
塾から帰ってきたときの足取り。
お友だちの話をするときの声のトーン。
そういう小さな変化の中に、本当に大切な情報が隠れています。
合格という一点だけを見つめていると、それらが視界から消えてしまいます。
お子さまのことで悩むお母さまへ
ここまでお読みいただいて、もしかしたらご自分のお子さまのことを思い浮かべて、胸が苦しくなっていらっしゃるかもしれません。
「うちの子も、もしかしたら無理をしているのではないか」
「合格後のことまで考えていなかった」
「今からでも間に合うのだろうか」
そういうお気持ちが湧いてくるとしたら、それは、お子さまを本当に大切に思っていらっしゃる証です。
気づかれたこと、考えようとされていること、その一つひとつが、お子さまにとって、何より大きな支えになります。
中学受験というのは、お母さまにとっても本当に大きな出来事です。
一緒に走り続けてこられたお母さま自身も、どこかで息切れしていらっしゃるかもしれません。
お母さま自身も、決してお自分を責めないでくださいね。
一人で悩まないでください。
私立中学合格後に学校に通えなくなったお子さん、これから中学受験に向かわれるご家庭、どちらの場合も、これまで多くのお子さまとご家族のお話をうかがってきました。
一緒に状況を整理させていただくことができます。
最後までお読みいただきありがとうございました。
どうぞ今日も良い一日でありますようにお祈りしております。
