私立中学での不登校(3)──学習の遅れによる焦りと、「いい子」の限界
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私立中学校に見事合格し、真新しい制服に身を包んで笑顔で入学式を迎えたお子さんが、ある日突然、学校に通えなくなってしまう。
その現実に直面し、お母様はどれほど戸惑い、苦しんでおられることかと思います。
前回は、私立中学校の学習スピードがいかに速いかというお話をさせていただきました。
今回は、その速さが子ども達の心にどう影響しているのか、もう一歩踏み込んでお伝えしたいと思います。
「風邪をひいて休んだら、行きにくくなった」
私立中学で不登校になった子ども達に、きっかけを聞いてみますと、「風邪をひいて休んだら、そのあと行きにくくなった」と話してくれることが、本当によくあります。
風邪を引いたくらいで、と思われるかもしれません。 ただ、私立中学では、熱を出して2、3日休むだけで、もうついていけない授業が出てきてしまうのです。
学習スピードが速いということは、休んだ分を取り戻すのに、通常の何倍ものエネルギーがいるということなのです。
真面目なお子さんほど、その遅れに対する焦りを強く感じてしまうのだと思います。
風邪をひく前から、もう限界だった
ところが、こういう子ども達と丁寧にお話をしていますと、もう少し奥のことを話してくれるようになります。
「実は、もうついていくだけで精一杯で、しんどくて、しんどくてたいへんでした」
風邪をひいて寝込む前から、すでにかなりの負担感を抱えていたのです。何とかついて行かなければいけない、と思いながら、まじめな子どもほど精神的に追い詰められていて、ぎりぎりの状態で学校に通っていたということになります。 風邪は、きっかけにすぎなかったのです。
「合格したのだから、ついていけるはず」という呪縛
ここまでぎりぎりの状態でがんばってきたのには、もう一つ理由があります。
自分でも、合格できたのだからついていけるはずだと思いたい気持ちがあるのです。
がんばらないと、と自分を奮い立たせてきたところもあります。
それは、本当にものすごくエネルギーがいることでありまして、しんどいことなのです。
そして、もう一つ。ご家族の期待に応えたい、という思いがあります。
第一志望であっても、第二志望であっても、ご家族が喜んでくれていることを、子どもはひしひしと感じています。
これから頑張って欲しいと思ってくださっていることも、しっかり受け止めているのです。
例えば、お母様が、ご実家や親しいお知り合いの方に、お子さんの通っている学校名を答えているような場に、本人がいれば、なおさらです。
ご家族の期待に応えたい、喜ぶ顔が見たい。だけど、苦しい、しんどい。がんばらないと。
そうして懸命に努力の糸を張り詰めてきたのですが、風邪をひいて3日も休んでしまったときに、その糸がぷつりと切れてしまうのです。
学校に行けない現実は、すべてが終わってしまったかのような、暗闇の中にいるという感じを持たれるかもしれません。
お母様がご自身を責めてしまうのも、仕方がないことだと思います。
「いい子」ほど、限界が見えにくい
こういう子どもは、もちろん、とても「いい子」です。
優しくて、穏やかで、小学校時代も先生からの評価が高い子どもが多いということは、私の経験上も間違いありませんし、私立中学校の先生からも、小学校の先生からも、よくお聞きすることなのです。
周りの空気を読み、大人が何を求めているかを敏感に察知して、期待に応えようとする力に長けているのです。
ただ、ここに大きな落とし穴があります。
本当の問題は、私立中学校で学校に行けなくなったことではないのです。
もっと以前から、こういう子ども達は無理をしてきているということに、ご家族も周りの大人も気が付いていない、ということなのです。
中学受験をする前から「いい子」でいたのですから、その頃から、自分を出す、自分の意見を表現する、自分の気持ちを伝えるということが、できないでいる子どもがほとんどです。
そして、一番、自分の思いを言えない相手が「親」だったりするのです。
苦しい、辛い、困った、助けて。 これが言えない子ども時代を送ってきて、私立中学になっても、何とか綱渡りのように努力を続けてきたのですが、その思いが、体調を崩しただけで、一気に限界を超えてしまった、ということなのです。
ぽつりとこぼした小さなつぶやきや、朝起きられないという行動の奥に、どれほどの悲鳴が隠されているのか。
その声にならない小さなサインにそっと気づいてあげることが、とても大切なのだと思います。
私立中学だから、早く表面化した
これは、必ずしも私立中学だから起こったことではありません。
公立中学で今までと同じように過ごしていれば、限界がくるまでには、もう少し時間がかかっただろうと思います。
ただ、どちらにしても、いつかは起こりうることだったのです。
私立中学で不登校になる子ども達は、中学受験のときから、すでに限界に近かったということが、十分に考えられます。
中学受験の大手進学塾が子ども達を無意識のうちに追い詰め、ご家族も無意識にそれにのっかってしまい、二重に追い詰めてきた結果である、という側面はあります。
お母様ご自身も、お子さんのためを思って、良かれと思って必死にサポートされてきたのだと思います。
ただ、私自身は、根本的な問題はもっと別のところにあると考えています。
それは、もっと小さい頃から「いい子」に育ってしまっていた、ということなのです。
お子さんはお母様のことが大好きで、悲しませたくなかったからこそ、限界まで無理をしてしまったのです。
本音で話せる関係があったかどうか
小さい頃、思い切り体を動かして遊び、そして、しっかりと本人のお話を聞いてあげること。
これが、本当に大切なことだったのではないかと思うのです。
「今日、何が楽しかった」だけではなく、「今日、何が嫌だった」「何が悲しかった」「何が腹立たしかった」ということを、ちゃんと話せる関係。
子どもが本音で話せる関係を作れなかったということが、根本の問題だったのではないかと、私は思っています。
ということは、今からでも、できることがあるということなのです。
私立中学で不登校になられたお子さんが、ご家族と本音で話せるようになったとき、本当に安心した穏やかな顔を見せてくれます。
その顔を見るたびに、この出来事はお子さんが心を取り戻すために必要な休養であり、大切なプロセスだったのだと深く実感するのです。
不登校は、終わりではありません。それまで言えなかった本当の気持ちを、ようやく外に出せるようになるための、大切な時間なのです。
お母様、もし今、お子様の不登校に直面されていて、何が起きているのか分からないと感じておられるなら、それは仕方がないことなのです。「いい子」だったお子様は、ずっと、ご自分の本当の気持ちを上手に隠してきたのですから。
一人で悩んで抱え込まないでください。お子様の今の状態を、一緒に整理させていただくところから始められます。まずは、お気持ちを少しずつお聞かせくださいね。
今日も最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。
どうぞ今日も良い1日をお過ごしください。
次回:第4話──ある私立中学生「T君」の軌跡。限界まで期待に応えようとした子ども達
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