中学受験の生活面・メンタル面を考える(18)
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■ 「解き直し、やったの?」が口ぐせになっていませんか
日曜日、夕方。大手進学塾の模試を終えて帰宅したお子さん。 あなたは「お疲れ様、難しかった?」とねぎらいの声をかけます。 しかし、お子さんはリュックをリビングの隅にドサッと置いたまま、一向に問題用紙を出そうとしません。
夕食後、「記憶が新しいうちに解き直しをしてしまおうね」と声をかけると、お子さんは途端に不機嫌な顔になり、「わかってる!あとでやる!」と部屋にこもってしまいます。
そっと部屋をのぞくと、答案は閉じられたまま机の隅に置かれている。 お子さんはスマホを触っていたり、ぼーっと天井を見ていたり、漫画をめくっていたり。
その瞬間、胸の奥がぎゅっとなる。
「なんで、こんな大事なことができないんだろう」 「やる気がないなら、もう受験なんてやめてしまえばいいのに」 「でも、そんなこと、口が裂けても言えない」
つい「いつまでスマホ見てるの!早く解き直ししなさい!」と声を荒げてしまった。 そして、言い過ぎた自分に後悔し、深く落ち込んでしまう。
そんな経験はありませんか? 少しでも難しい学校に行かせてあげたいと願うからこそ、目の前のお子さんの態度に強く悩んでしまうお母さんのお気持ち、私は痛いほどよくわかります。
■ 「解き直しを嫌がる」のは、心が悲鳴をあげているサインかもしれません
私は、これまで31年にわたって、中学受験で苦しむ子どもたち、そして不登校になった子どもたちを見てきました。 その中で、偏差値50前後のお子さんに、ある共通点があります。
それは、**「解き直しを嫌がる子ほど、本当はまじめで、本当はがんばりたいと思っている」**ということです。
意外に思われるかもしれません。
でも、考えてみてください。 模試の答案というのは、「できなかった自分」がそのまま残っている紙です。 バツ印、空欄、的外れな解答。 点数の低さ。偏差値の数字。クラスが下がるかもしれないという予感。
それを、もう一度開いて、もう一度向き合うというのは、大人でも相当エネルギーが要ることです。
しかも、子どもはすでに毎週のように、塾で確認テストを受け、宿題で正答率を突きつけられ、組分けで席順が変わる。
「自分はできない」「自分はダメだ」というメッセージを、すでにお腹いっぱい受け取っているのです。
そこへさらに「解き直しなさい」と言われる。 それは、子どもにとってこういう意味になります。
「もう一度、できなかった自分と向き合いなさい」 「もう一度、自分を否定しなさい」
これを毎週やれと言われて、平気でいられる子どもはいません。
これは、臨床心理の視点から見ると、お子さんの必死の「心の防衛反応」である可能性が高いのです。 「やる気がない」のではなく、「これ以上、自分を傷つけたくない」ということです。
■ 偏差値50前後のお子さんに、特にこのサインは出やすいのです
なぜ、偏差値50前後のお子さんに、このサインが出やすいのか。
上位のクラスにいるお子さんは、「次は取れる」という自信の貯金があります。 だから、間違えても「ここを直せば次は大丈夫」と思える。
でも、偏差値50前後のお子さんは、その中間にいます。
がんばればもう少し上に行けそうな気もする。 でも、ちょっと気を抜くと一気に下がる。 クラスが変わるたびに、友達との関係も、塾の先生の態度も、お母さんの表情も変わる。
このゾーンにいる子どもたちは、毎週、心がジェットコースターのように揺れているのです。
その状態で「解き直しをしっかりやりなさい」と言われ続けると、心はだんだん固まっていきます。
そして、ある日、答案を開けなくなる。 鉛筆を持てなくなる。 机に座れなくなる。
ここまで来ると、解き直しどころではなく、塾そのものに行けなくなるケースもあります。
実は、私が支援してきた不登校のお子さんのなかには、中学受験のこの時期に、解き直しを嫌がるサインを見過ごされてしまった子が、少なからずいます。
■ 怠けと決めつけない方がよい、心のエネルギー低下のサイン
次のような様子があるときは、単なる怠けではなく、心のエネルギーが切れかかっているサインかもしれません。
- 模試の話をすると急に黙る
- 解き直しを始めても、すぐ手が止まる
- 答案を見るときの表情がやけに無表情
- 以前よりぼーっとする時間が増えた
- 「どうせ無理」と言うことが増えた
- テスト直後や結果返却後に強く不機嫌になる
- 夜更かしや朝の起きづらさが増えている
この状態のときに「みんなやっているんだからやりなさい」と押してしまうと、子どもはますます問題から離れていきます。 動かないのではなく、動けない状態に近づいていくのです。
■ 家庭で最初に見直したい3つのこと
1.解き直しの「量」を、大胆に絞る
全部やらせようとすると、子どもは問題用紙を開く前から負けた気持ちになります。
間違えた問題を全部やり直すのではなく、まず**「あと一歩で取れた問題」だけ**に絞ってください。 計算ミスで落とした問題。途中までは合っていた問題。選択肢を2つまで絞れていた問題。
これだけに絞れば、子どもは「できなかった自分」ではなく、**「もう少しでできた自分」**と出会えます。
「ここ、惜しかったね」 「あと一歩だったね」
この声かけは、「解き直しなさい」より、何倍も効きます。
2.タイミングを少しずらす
模試直後や結果を見た直後は、子どもの心がかなり傷ついています。 その日のうちに全部ではなく、翌日に一部だけ見る。 これだけでも、ずいぶん違います。
3.声かけを「指示」から「状態を聞く」へ
「なんでやらないの?」「早くしなさい」という言葉は、正しくても、今の子どもには入っていきません。
それよりも、
「今日はどこまでなら見られそう?」 「一緒に1問だけ確認する?」 「今、問題を見るのもしんどい感じかな」
と、状態を聞く声かけの方が、子どもは安心しやすいです。 安心すると、止まっていた思考が少し戻ってきます。
■ 解き直しの裏には、生活面の疲れも隠れています
ここで見落としたくないのが、生活面です。
睡眠不足、通塾回数の多さ、宿題量の過多、休む時間の不足、家庭内の緊張感。 こうしたものが積み重なっていると、子どもは解き直しどころではなくなります。
特に睡眠が足りない子は、間違えた問題を整理するような負荷の高い作業に向かいにくくなります。 ぼーっとする、イライラする、すぐ投げ出す、という形で出ることもあります。
「解き直しを嫌がる」という一つの行動の裏に、心の疲れ・体の疲れ・自信の低下・親への気づかい・塾での比較によるしんどさが、いくつも重なっていることがあるのです。
■ お母さんは、何も悪くないのです
ここまで読んでくださって、もしかすると、
「ああ、私は子どもを追い詰めていたかもしれない」
と感じられた方もいらっしゃるかもしれません。
でも、どうかご自分を責めないでください。
お母さんは、お子さんの将来を真剣に考えているからこそ、声をかけてきたのです。 塾の先生の言うことを信じて、誠実にやってきたのです。 何ひとつ、間違ってはいません。
ただ、塾は「全員に効く方法」しか教えてくれません。 お子さん一人ひとりの心の状態に合わせた声かけや、解き直しの絞り込み方は、塾では教えてくれないのです。
そこは、家庭で、お母さんが、お子さんと一緒に見つけていくしかありません。 そして、その作業は、お母さんひとりで抱える必要はありません。
■ 今、本当に大切なのは「やらせること」ではなく「戻れる状態をつくること」
模試の解き直しは大事です。それは間違いありません。
でも、もっと大事なのは、子どもが学びに戻れる状態を保つことです。
解き直しをさせることに必死になるあまり、子どもが自信を失い、親子関係が悪くなり、勉強そのものを見るのも嫌になる。 そうなってしまうと、本末転倒です。
ですから、解き直しを嫌がる子を前にしたとき、最初に考えたいのは、
「どうやってやらせるか」ではなく、 「この子は今、どれほど傷ついているのか」
です。
そこが見えてくると、関わり方は自然と変わっていきます。
■ もし、ひとりで抱えきれないと感じられたら
「うちの子の場合、どこまで解き直しをさせていいのか分からない」 「解き直しを嫌がるだけでなく、最近、塾に行く前にお腹が痛いと言うようになった」 「このままだと、受験どころか、学校にも行けなくなりそうで怖い」
そう感じていらっしゃるなら、ぜひ一度、生活面・メンタル面のご相談にいらしてください。
私は、これまで偏差値50前後のお子さんを持つお母さん方のご相談を数多くお受けしてきました。 お子さんの状況を、お母さんと一緒に整理するだけでも、
「あ、うちの子はサボっていたんじゃなかったんだ」 「ここから始めればいいんだ」
と、肩の力が抜けていかれる方がほとんどです。
無理に何かを売り込むことはいたしません。 ただ、お母さんとお子さんが、もう少し楽に受験を続けられる道を、一緒に探させてください。
お母さんの笑顔が戻ることが、お子さんにとっての最大のエネルギー源になります。
▶ あわせてお読みいただきたい記事:
『勉強しなさい』で動けないのは、やる気の問題ではないかもしれません(中学受験大手進学塾が教えてくれない30の課題・17)
最後までお読みいただきありがとうございました。
どうぞ今日も良い一日でありますようにお祈りしております。
ー中学受験と不登校(1026)ー
