「このまま頑張れば何とかなる」が危ないケースとは

中学受験の生活面・メンタル面を考える(24)

今日も私のブログにお越しいただき、ありがとうございます。

感謝申し上げます。

「このまま頑張れば、何とかなる」

中学受験のご家庭で、お母さんが心の中で何度も繰り返している言葉ではないでしょうか。

大手進学塾のカリキュラムは信じられないほどの速さで進みます。

毎週のように膨大な量のプリントや宿題が出されます。

「少しでも上の学校へ入れたい」と強く願い、お母さんは必死にサポートをしてこられたと思います。

成績が上がらないのは、まだ努力が足りないからだと思ってしまいますよね。

夏休みになれば、直前期になれば、きっと本人のスイッチが入るはずだと信じていらっしゃるでしょう。

ここまで来たのだから。

あと数か月だから。

塾の先生も「最後の伸びがある」と言ってくれているから。

模試の結果はまだ届かないけれど、本人もやると言っているから。

そう自分に言い聞かせながら、毎日のお弁当を作り、塾の送り迎えをし、夜遅くまで一緒に丸つけをされている。

本当に頭が下がります。

ただ、長年たくさんのご家庭を見てきて、私には一つ気になっていることがあります。

「このまま頑張れば何とかなる」という言葉が、ある時期から、お子さんを支える言葉ではなく、お子さんを追い込む言葉に変わってしまうご家庭が、決して少なくないのです。

あるご家庭でのお話

少し前にご相談に来られた、小6のお子さんを持つお母さんのお話をさせてください。

プライバシーに配慮し、内容は少し変えてあります。

そのお子さんは5年生までは順調でした。

偏差値は50前後。本人も「受験する」と言っていました。

ところが、6年生の夏あたりから、宿題が回らなくなってきた。

模試の結果も少しずつ下がっていました。

お母さんは焦って個別指導を追加し、家庭での学習時間も増やしました。

それでも本人は「やる」と言う。

「やめたくない」と言う。

お母さんはそれを聞いて、「じゃあ、このまま頑張れば何とかなる」と信じることにされた。

信じるしかなかった、という感じだったかもしれません。

ところが、10月のある朝、そのお子さんは布団から出てこなくなりました。

お腹が痛い、頭が痛い、眠い。

それが1週間続き、2週間続き、塾も学校も行けなくなった。

お母さんがおっしゃった言葉が、今も胸に残っています。

「あの子、ずっと『やる』と言っていたんです。なのに、どうして…」

「やる」と「やれる」は違うのです

子どもさんが「やる」と言うことと、「やれる」ということは、必ずしも同じではありません。

真面目で、お母さんやお父さんを大切に思っているお子さんほど、「やる」と言い続けます。

やめたいと言ったらお母さんが悲しむことを、ちゃんとわかっているからなのです。

ということは、お子さんの「やる」「大丈夫」「頑張る」という言葉は、額面通りに受け取ってよいときと、そうではないときがある、ということになります。

危険度には「段階」があります

ご家庭で判断していただく上で大切なのは、危険度には段階があるという感覚です。

第一段階は、少し疲れが見えているレベルです。

週末によく眠る。
口数が少し減る。
無表情で塾から帰ってくる。
「疲れた」とすら言わなくなる。
塾から帰って30分ほどぼーっとする。

感情のスイッチを切ってしまっている状態なのです。

この段階は、生活面の小さな調整で立て直せます。

第二段階は、日常の所作に変化が出てくるレベルです。

お風呂に入る回数が減る。
好きだったテレビ番組を見なくなる。
食卓での口数が極端に減る。
塾から帰ってきても、カバンを置いたまましばらく動かない。
宿題のテキストを開いたまま、何十分もぼーっとしています。
消しゴムをいじっているだけで一時間経ってしまうこともあります。
週末、ベッドから出てこない時間が長くなる。

この段階に入ったら、ご家庭での「内容と量」の見直しが急務です。

第三段階は、体にはっきりとサインが出ているレベルです。

腹痛、頭痛、吐き気、朝起きられない。
食欲不振で、朝食のパンを一口かじっただけで戻してしまうこともあります。
夜眠れない。

体は嘘をつきません。

心が限界を超えそうになると、体の方から強制終了のサインを出してきます。

この段階は、ご家庭の工夫だけで抱え込まず、小児科や心療内科などの医療機関にいったん相談する必要があります。

受験の話の前に、まずは心と体を守らなければならないときです。

成績は、まだ落ちていないかもしれません。

本人も「大丈夫」と言うかもしれません。

真面目なお子さんほど、お母さんを悲しませまいとして「やる」と言い続けます。

その表面的な言葉や行動だけを見て判断してはいけないのです!

このサインが第二段階から第三段階に移りかけているとき、「このまま頑張れば何とかなる」と前に進むのは、本当に慎重になっていただきたい局面なのです。

何から減らすか、優先順位があります

もし、お子さんに危険なサインが見られたら、勇気を持って立ち止まる必要があります。

しかし、「立ち止まる」と言われても、現実にはどこから手をつけてよいかわからない、というお声をよくいただきます。

私がご家庭にお伝えしている優先順位は、はっきりしています。

一番に守るのは、睡眠時間です。

小6でも最低7時間、できれば8時間。

睡眠を削っての勉強は、記憶の定着も判断力も落とすので、本当に割に合いません。

二番目に見直すのは、宿題の選別です。

宿題の何をやらなくて、何をやるかです。

塾の宿題は「全部やる」を一度手放してください。

基礎が固まっていない単元の応用問題は、思い切って飛ばす。

算数なら基本問題と一行題を優先する。

やる範囲を絞ることは、手抜きではなく、戦略です。

三番目に見直すのは、模試と過去問の量です。

受けるだけ受けて解き直しが追いつかない模試は、お子さんの自信を削るだけになります。

受ける回数を絞る判断は、十分にあり得ます。

四番目に検討するのが、通塾回数を減らすことと拘束時間短くすることです。

週4を週3にする、自習室の利用を週2に減らす、土曜特訓を一度休む。

ここに手をつけるのは勇気が要ります。

ただ、第二段階以降のサインが出ているなら、必要な判断です。

「もちろん、頑張ること自体が悪いわけではありません。」

ただ、その「頑張り」がお子さんの体や心のどこかを少しずつすり減らしているとしたら、それは「頑張れば何とかなる」ではなく、「頑張るほど、何かが壊れていく」になっている可能性があるのです。

相談先は、内容によって違います

もう一つ、ご家庭で混乱しがちなのが、誰に相談すればよいのか、という問題です。

成績の戦略やカリキュラム上の調整は、まず塾の担当の先生にご相談ください。

ただ、大手の集団塾では、個別の生活面まで踏み込んだ提案は、構造的に難しい場合がほとんどです。

ご家庭内の声かけや生活リズムの組み直しは、ご夫婦で話し合うのが原則です。

お父さんが受験から距離をとっていらっしゃるご家庭ほど、ここで一度、現状を共有する時間が要ります。

そして、体に出ているサイン、眠れない、食べられない、強い無気力が続くといった状態は、医療機関のご相談です。

その上で、「今、塾に相談すべきか、家庭で調整すべきか、医療にかかるべきか、その線引き自体がわからない」というときに、私のような第三者の出番があります。

整理して、優先順位をつけ直すお手伝いをいたします。

お父さんと家族全体で支えてください

ここでもう一つ、大切なお話があります。

中学受験で苦しくなるご家庭の多くは、お母さんお一人がすべてを背負われています。

送り迎えも、丸つけも、声かけも、塾とのやり取りも、です。

この、お母さんの焦りや不安をそのまま受け止めてもらう相手が必要です。

ただ、お子さんの心と体を支えるためには、家庭全体の力が必要です。

お父さんには、勉強を見てもらわなくても構いませんが、家族というチーム全体でお子さんを見守り、支える体制を作ることが求められます。

週に一度、お子さんと別の話をしてもらう。

ご飯のときに学校の話を聞いてもらう。

休みの日に外に連れ出してもらう。

それだけで、お子さんの「逃げ場」が一つ増えます。

ご兄弟がいらっしゃる場合も、受験生に家中が振り回されすぎないように、ご家族全体の生活を守ってあげてください。

ここの手を抜くと、ご兄弟の方にもしんどい状況が出てきてしまいます。

これについても、お父さんと一緒に、家族全体の生活を守ってあげてください。

お母さんお一人で抱える時間が長いほど、お母さんご自身が倒れてしまいます。

続ける以外の選択肢も、テーブルに置いてみる

「立ち止まる」というと、多くのお母さんがすぐに「受験をやめること」を思い浮かべます。

ただ、立ち止まり方には、いくつもの段階があります。


一つは、ペースを落として今のまま続ける選択です。

宿題量と通塾回数を見直し、走り続ける。


二つ目は、志望校を再設計する選択です。

第一志望はそのままに、併願校を見直す。

偏差値ではなく、入学後に通い続けられそうな校風で選び直す。


三つ目は、受験校数の思い切った絞り込みです。

体力的な負担を軽くするためにも、日程に余裕を持たせる工夫が必要です。

お子さんの体力を考えて、関西であれば、中学入試統一解禁日の午前、2日目の午前か午後、3日目の3項くらいに絞り込む。

関東であれば、1月校を1校に絞る、2月の受験日数を減らすという判断もあります。


四つ目が、いったん受験から離れる選択です。

1か月ほど勉強から離れてみる。

年明けから再開する。

受験そのものを取りやめて、高校受験に切り替える。

これらは「失敗」ではなく、「戦略変更」です。

お子さんに合った道を、もう一度選び直す作業です。

お母さんも止まれなくなることがあります

ここまでお金もかけてきた。時間もかけてきた。途中でやめたら、これまでの全部が無駄になってしまう気がする。

ご相談に来られるお母さんから、本当によく聞く言葉です。

ただ、ここまで頑張ってきた時間も、お金も、お母さんの愛情も、決して「無駄」にはなりません。

受験を続けるかどうかにかかわらず、お子さんと向き合ってきた日々は、ちゃんとお子さんの中に残っています。

最後に

「このまま頑張れば何とかなる」が危ないケースとは、ひと言で言えば、お子さんの心や体の声よりも、その言葉の方が大きくなってしまっているケースです。

ここまでお子さんのために走ってこられた時点で、お母さんは本当に十分すぎるほど頑張っていらっしゃいます。

仕方がないと自分を責めず、ここから先のことは、ご家庭の中だけで抱え込まなくても大丈夫です。

お悩みの方は、個別にご相談ください。

お母さん一人で悩まないでください。

お子さんの今の様子をうかがいながら、何を減らし、誰に相談し、どの道を選ぶか、ご家庭に合った形を一緒に整理させていただきます。

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「この子は真面目だから大丈夫」—その言葉が、いちばん危ない!(中学受験の生活面・メンタル面を考える(16))

最後までお読みいただきありがとうございました。

どうぞ今日も良い一日でありますようにお祈りしております。

ー中学受験と不登校(1032)ー

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