不登校で父親と母親の考えが合わないとき
家庭の温度差をどう埋めるか
今日も私のブログにお越しいただき、ありがとうございます。
感謝申し上げます。
これまでお伝えしきれなかった「不登校」に関する大切なテーマを、13回にわたる新しい連載シリーズとしてお届けしていきます。
これまで私は、「note」で不登校について300本以上の記事を書かせていただきました。
その中で、ご相談をお受けするたびに何度も直面しながら、デリケートで活字にしづらかった切実な問題がありました。
今回は、そうしたテーマを13個選び、順番に丁寧にお話ししていきたいと思います。
第1回は「不登校で父親と母親の考えが合わないとき―家庭の温度差をどう埋めるか」
中1の5月の終わり頃から、なんとなく学校に行き渋るようになり、夏休みが明けても全く動けないまま、気がつけば中2になってしまった。
そんなお子さんを見守りながら、毎日お仕事を頑張っていらっしゃるお母さん、本当にお疲れ様です。
朝、仕事に出かける前、布団から出てこないお子さんを見るたびに胸が締め付けられ、職場では仕事に集中しようと気を張って、夜、クタクタになって家に帰る。
本来なら、家は一番心が休まる場所であるはずなのに、今のお母さんにとっては、家の方が緊張を強いられる場所になってしまっているかもしれません。
この一年、お母さんは、どれだけのことを抱えてこられたでしょうか。
学校との連絡
担任の先生とのやり取り
スクールカウンセラーの予約
フリースクールの情報集め
お子さんの食事、生活リズム、ゲームの時間
お子さんが寝ている間の家事
そして、ご自分のお仕事。
そのすべてを、ほとんどお母さんおひとりで回してこられたのではないでしょうか。
そして、ふと気づくのです。「あれ、お父さん、この一年、何をしていたのだろう」、と。
このまとめでは、noteで前編・中編・後編に分けて書いた「不登校をめぐる夫婦の温度差」のお話を、一本にまとめてお届けします。
「学校に行かせろ」「甘やかすからだ」と言われて
ご相談で本当によく伺うのが、こういったお父さんの言葉です。
「いつまで休ませるんだ」
「お前が甘やかすからだ」
「中2になったんだぞ。高校受験はどうするつもりだ」
「無理にでも引っ張って行かせろ」
仕事から帰ってきて、ただでさえ心身ともにすり減っているところに、お父さんからこんな言葉を投げかけられたら、お母さんはどうしていいか分からなくなってしまいますよね。
「私が悪いの?」
「私だって、どうしたらいいか分からないのに……」
誰にも相談できず、夫婦の間には深い溝ができ、家庭の中に冷たいすきま風が吹いている。
そんな孤独の中で、お母さんはたった一人で戦っていらっしゃるのだと思います。
私はこれまで長年、不登校の子どもたちとご家族を支援してきましたが、この「夫婦間の温度差」は、本当に多くのご家庭で起こる深刻な悩みです。
お父さんもまた、深い不安の中にいらっしゃる
ここで、少しだけ、お父さんの側のことも書かせてください。
お父さんを擁護したいわけではありません。
お母さんが今、どれだけお辛いか、私はよくわかっているつもりです。
ただ、長年不登校のご家庭を見てきて、気づいたことがあります。
お父さんもまた、深い不安の中にいらっしゃる、ということです。
お母さんは、毎日お子さんの一番近くで、その苦しそうな表情や、動きたくても動けない現実を見ています。
だからこそ、「今は休ませてあげたい」「無理に行かせても壊れてしまう」と肌感覚で理解されています。
しかし、お父さんはどうでしょうか。
日中、仕事に出ているお父さんは、お子さんが家でどんなふうに苦しんでいるのか、その生々しい姿を見る機会が圧倒的に少ないのです。
そのうえ、お父さん方の多くは、社会の最前線で「結果を出すこと」「ルールを守ること」を求められて生きていらっしゃいます。
「自分が子どもの頃、こんなふうに休んだら、父親に殴られた」「学校に行かないなんて、自分の人生にはなかった選択肢だ」「このままでは、この子は社会でやっていけない」。そういった、ご自分の過去や、社会の中でのご経験から来る、強烈な恐怖感をお持ちなのです。
つまり、お父さんが「学校に行かせろ」と怒る背後にあるのは、実はお母さんと同じ「お子さんの将来への強い不安」です。
ただ、男性は「不安」を素直に表現することが苦手な方が多く、それが「怒り」や「お母さんへの非難(正論)」という形に変換されて表に出てきてしまうのですね。
言葉にできない不安は、怒りに変わります。怒りは、一番近くにいる、お母さんとお子さんに向かいます。これが、お父さんの中で起きていることの、一つの典型です。
頭ではお父さんの気持ちがわかっても、毎日責められるお母さんの心は持ちません。
まずは、「お父さんと意見が合わなくて辛い」と思っているご自分を、決して責めないでください。
あなたは、お仕事と子育てを両立しながら、本当に、本当によくやっていらっしゃいます。
お子さんの中で起きていること
お母さんは「休んでいいよ、無理しなくていいよ」と言ってくれる。
でも、お父さんは「いつまで休んでいるんだ、学校へ行け」と怒っている。
このように、両親から全く違う二つのメッセージを同時に受け取ることは、お子さんにとって、ものすごくエネルギーを奪われる状態です。
お母さんの言う通りに休んでいれば、お父さんを怒らせてしまう。
かといって、お父さんの言う通りに無理やり学校に行けば、心と体が壊れてしまいますし、心配してくれたお母さんを裏切るような気持ちにもなる。
どちらを選んでも「正解」がないため、お子さんは身動きが取れなくなってしまうのです。
そして、不登校になっているお子さんたちは、とても繊細で、優しい心を持っています。
夜、お父さんとお母さんがご自分のことで言い争っている声が聞こえると、お子さんはこう思います。
「僕(私)のせいで、お父さんとお母さんが喧嘩している」
「自分が学校に行かないから、大好きな家族が壊れてしまう」。
ただでさえ学校に行けなくて自己肯定感がどん底まで落ちているのに、さらに「自分は家族の厄介者だ」という強烈な罪悪感を背負い込んでしまうのです。
温度差は、すぐには「埋まらない」と知ってください
少し、意外なことを書きます。
私はご相談で、お母さんに、こうお伝えすることがあります。
「お父さんとお母さんの温度差は、すぐには埋まりません。だから、まずは、埋めようとしなくて大丈夫です」と。
お母さんは、たいてい、驚かれます。「埋めなきゃいけないと思っていました」と。
そうなのです。
お母さんは、優しい方ほど、ご家庭の中の不協和音を、ご自分の力でなんとかしようと、頑張ってしまわれます。
お子さんのことも、お父さんのことも、ご自分が「橋渡し」をしないといけない、と思い込んでいらっしゃる。
でも、それは、無理なのです。
なぜなら、お父さんとお母さんでは、お子さんとの関わり方の「時間の長さ」が、まったく違うからです。お母さんは、お子さんが生まれてから今日まで、ほぼ毎日、お子さんと過ごしてこられました。お父さんは、お仕事で家を空けていらっしゃる時間が長く、お子さんの「日々の小さな変化」を、お母さんほどには見ていらっしゃいません。見てきた情報量が違うのです。ですから、お子さんを見る目も、当然、違ってきます。
これは、どちらが正しい、間違っているという話ではなく、構造的に、そうなっているのです。
お母さんが、いったん手放していいこと
そのうえで、お母さんに、ぜひいったん手放していただきたいことがあります。
お父さんに、お母さんと「同じ温度」になってもらおうとすること。
お父さんはお父さんで、ご自分のペースで、お子さんの状況を理解していかれます。
お母さんが「説得」しようとすると、かえって、お父さんは身構えてしまわれます。
お父さんとお子さんの間を、毎回、お母さんが取り持つこと。
「お父さんはこう言ってるけど、本当はあなたのこと心配しているんだよ」「お母さんからお父さんに言っておくから」。
こういった「翻訳係」を、お母さんがずっと続けていると、お母さんが先に潰れてしまわれます。
お父さんに、不登校についての「正しい知識」を、お母さんから教えようとすること。
お母さんが必死で集めた本や記事を、お父さんに「読んでみて」と渡しても、読んでくださらないことが多いのです。読んでくださっても、「で、結局どうするんだ」と返ってきたりします。
これらは、お母さんの「やさしさ」と「責任感」の表れです。
けれども、いったん、置いてください。お母さんが疲れ果てては、お子さんを支える力が残りません。
代わりに、お父さんへは「事実」だけを淡々と
代わりに、やっていただきたいことがあります。それは、お父さんに、お子さんの “事実” だけを、淡々と伝える、ということです。
「今日は、お昼にうどんを食べた」
「今日は、夕方、少しリビングに降りてきた」
「今日は、ずっと部屋にいた」
「今日、スクールカウンセラーに行ってきた。先生はこう言っていた」
評価も、解釈も、お願いも、抜きで、です。
「だから、こうしてほしい」と付け加える必要はありません。
LINEでも、口頭でも、メモでも、構いません。これを、毎日、続けてみてください。
すると、不思議なことが起こります。
お父さんは、「事実」を蓄積していくうちに、ご自分のペースで、お子さんの状況を理解されていきます。
お母さんが「説得」しようとしている間は身構えていらっしゃったお父さんが、ご自分で考え、ご自分で気づき始められるのです。
人は、説得されると反発します。
けれども、事実を積み重ねられると、考え始めます。
これは、私が長い年月の中で、何度も見てきた光景です。
「夫を変える」を、ゴールにしないでください
お母さんからのご相談で、いちばん多いお気持ちは、これかもしれません。
「夫が変わってくれないと、子どもが安心して家にいられないんです」。
そのお気持ちは、痛いほどわかります。
ただ、ここで一つだけ、お伝えしたいことがあります。
お父さんを変えることを、お母さんの「ゴール」にしないでください。
なぜなら、人は、他人から変えられることを、いちばん嫌がるからです。
お父さんを変えようとすればするほど、お父さんは頑なになっていかれます。
そして、お母さんは、変わらないお父さんを見て、絶望されます。お母さんが絶望されると、お子さんはそれを敏感に察知して、さらに動けなくなります。
ゴールにすべきなのは、お父さんを変えることではなく、「お子さんが、家の中で安心して呼吸できる時間を、少しでも増やすこと」 です。
「第三者の力」を借りる
お父さんに変化していただくために、いちばん効果的な方法があります。
それは、「第三者の力を借りる」ということです。
夫婦という近い関係だからこそ、お父さんに直接「あなたの考えは間違っている」「もっと子どもの気持ちに寄り添って」と言葉で伝えても、なかなか届きません。
「妻にダメ出しされた」と感じて、無意識に反発してしまわれるからです。
しかし、お父さん方は社会で働いてこられたプロフェッショナルです。
そのため、「専門家」や「客観的な第三者」の意見には、意外なほど素直に耳を傾けてくださる傾向があります。
スクールカウンセラー、担任の先生、フリースクールのスタッフ、あるいは私のような長年不登校に関わってきた相談員のいる場へ、お父さんを引っ張り出してみてください。
「先生が、お父さんの意見もぜひ聞きたいって言っているの」「私一人だと心細いから、一緒に話を聞きに行ってくれない?」。
このように、「あなたを頼りにしている」というスタンスで誘ってみるのです。
そして、第三者から「今、無理に登校を刺激するのは逆効果です」「お父さんの焦るお気持ちはよくわかりますが、今は見守る時期です」と、客観的な経験に基づいてお伝えいただくと、お父さんの態度がふっと軟化することが本当に多くあります。
お父さんに「役割」をお渡しする
もう一つ、おすすめしたいことがあります。
お父さんに、具体的な「役割」をお渡しする、ということです。
お父さんは「どうしたらいいかわからない」状態が、いちばんストレスを感じます。
だから「学校に行かせろ」と、ご自分にもわかりやすい解決策を口にしてしまうのです。
そこで、たとえば、こう声をかけてみてください。
「今はエネルギーを貯める時期だから、お父さんには『一緒にゲームをして笑ってあげる役割』をお願いしたいの」 「週末に、気晴らしにドライブに連れ出してくれない?」
「何もしないで見守る」ことも、一つの立派なミッションだと、伝えてあげてください。
役割が明確になると、お父さんは安心して動けるようになります。
お父さんとお子さんを、物理的に分けることは、悪いことではありません
それでも、お父さんがお子さんに対して、繰り返し厳しい言葉を投げかけられるご家庭では、お母さんに、こうお伝えすることがあります。
「お父さんがお家にいらっしゃる時間と、お子さんがリビングにいらっしゃる時間を、少しずらしてみてください」
たとえば、お父さんがお食事をされる時間に、お子さんはお部屋でお食事を召し上がる。
お父さんがお風呂に入られる時間に、お子さんはご自分の時間を過ごす。
これは、「逃げ」ではありません。お子さんを守るための、立派な戦略です。
ご家族が一緒に食卓を囲むことが理想だ、と思っていらっしゃるお母さんは、これに罪悪感を抱かれます。
けれども、お子さんが回復していくためには、何よりもまず、安心して呼吸できる時間が必要です。
理想の家族像は、お子さんが回復してから、また、ゆっくり取り戻していけばいいのです。
お父さんとは「お子さんの話以外」でも、つながり続けてください
そしてもう一つ、お母さんにお願いしたいことがあります。
それは、お父さんとは、お子さんのこと「以外」の話で、つながり続けてください、ということです。
不登校が長引くと、ご夫婦の会話が、お子さんのことだけになっていきます。
そして、その会話のたびに、温度差がぶつかり、お母さんは消耗されます。
やがて、お母さんは、お父さんと話すこと自体が辛くなります。
そうなる前に、です。
お天気のこと
今日召し上がったお昼のこと
最近観たテレビのこと
お父さんのお仕事の愚痴
何でも構いません。お子さんと関係のない話題で、ほんの数分でも、お父さんと笑い合える瞬間を、意識して残してみてください。
お母さんとお父さんが、夫婦としてつながっていらっしゃる、その姿そのものが、実は、お子さんにとっての大きな安心になります。
お子さんは、ご自分のせいでご両親が壊れていくことを、何より恐れていらっしゃるからです。
最後に――お母さんへ
それでもどうしても、お父さんが理解してくださらないご家庭もあるかもしれません。
そのときは、お母さん、覚悟を決めてください。
「お父さんはあんなふうに言っているけれど、お母さんは絶対にあなたの味方だからね」
「何があっても、お母さんがあなたを守るから、安心して休んでいいよ」
お母さんが、お子さんにとっての「最後の砦」、「絶対的な安全基地」になってあげてください。
ご両親が揃って理解を示すのが理想ですが、どちらか一人でも、100%ご自分を受容してくれる大人がいれば、お子さんは必ずまた立ち上がる力を取り戻されます。
お母さんが、この一年、どれだけ頑張ってこられたか。
どれだけ眠れない夜を過ごされたか。
どれだけ、お父さんの言葉に傷つきながら、それでもお子さんの前では笑顔を作ってこられたか。
私は、直接お会いしたことのないお母さんでも、ご相談の文面から、それが伝わってきて、何度も胸が熱くなります。
ご夫婦の温度差は、すぐには埋まりません。
けれども、お母さんが、お母さんご自身を大切にしながら、お子さんとお父さんとの間に、少しずつ、無理のない距離を作っていかれることで、ご家庭は、必ず少しずつ落ち着いていきます。
長い間、私はそういうご家庭を、たくさん見てきました。
だから、どうか、ご自分を責めないでください。
そして、もし今、ご家庭の中で本当に行き詰まりを感じておられるのでしたら、一人で抱え込まないでください。
お悩みの方は、個別にご相談ください。
ご家族の状況に合わせて、一緒に整理させていただきます。
最後までお読みいただきありがとうございました。
どうぞ今日も良い一日でありますようにお祈りしております。
